ソーシャルスキル&ホーストレーニング in 佐世保
昨年12月にSST(ソーシャルスキルトレーニング)を専門とする「大阪YMCA」と、乗馬療法を専門とする「さんりんしゃ」が協働でこのプログラムを実施しました。その時の対象は高学年でしたが、低学年の要望もあり、今回ゴールデンウィークの3日間を使って同様のプログラムを実施しました。
このプログラムはTA-SSTを採用しています。複数の指導者がチームとなり、課題や子どもたちの状況に合わせて、接する人や接し方を変える手法です。今回の指導者もこの3人です。
左 加藤(大阪YMCA) 中央 三輪(さんりんしゃ) 右 裵(大阪YMCA)
SST、乗馬、ヨガとそれぞれの専門性を融合させたここでしか味わえないプログラムです。
【顔合わせ会】
今回の参加者は佐世保周辺の小学校に通う2年~3年生の子どもたちです。まず4月に顔合わせを行い、事前アンケートと当日のワークを通じて参加者の能力や言動、行動を確認し、実際に乗馬を体験してその反応を見ました。また保護者の方とも話をして5月の目標設定を行いました。
このプログラムのSSTは小集団を基本としています。互いに学び合える環境を活用するため、指導者は机の配置、子どもたちの座る位置、そして接し方など、細かな所まで考えた上で指導に臨みます。
色々なプリント課題を通じてどんな考え方をするのか、どこまで粘り強く取り組めるか、得意なことや苦手なことを指導者が把握していきました。
プリント課題の後は乗馬体験をして、3日間のイメージをもってもらいました。
見かけは小さく見えますが、乗ってみると視線が高くなり、少し怖さを感じる子どももいました。
このプログラムは乗馬を通じて学ぶことを目的としていますので、馬のお世話もその一環となっています。
これで子どもたちも指導者のことがよくわかり、指導者も子どもたちの目指すべきゴールを確認できました。5月3日~5日の3日間が楽しみです。
~ 5月3日~5日のプログラム ~
さあ、いよいよ3日間集中コースが始まりました。たくさんのことを学び、乗馬やヨガを通じて実践していきましょう。
毎朝、みんなであいさつをした後、体調、そして今日の予定を確認します。
【アイスブレーキング】
考えやすくするための頭の準備体操の時間です。道具を使わず、見る、聞く、真似るなどをねらいとして色々な遊びをしました。
【アカデミックワーク】
SSTの指導では学んだ内容を普段の生活の中で応用・般化できる力を身につけるため、アカデミックワークにも力を入れています。今回は注意の持続や推論、聞く、見る、試行錯誤、方略などをねらいとしたプリント学習を行ないました。取り組む中で知らなかった考え方にも気づくことができました。
子どもたちの集中力を切らさずに取り組めるように、時々、遊びを入れながら取り組んでいきます。
少し体を動かしたら、またワークに取り組みます。
互いに教え合うのも小集団でする良さです。教える方も聞く方も真剣です。
【SST】
SSTの時間は、最初にワークシートを使って学び、次に学んだ内容をその場のロールプレイや実践で上手にできるかを確かめていきます。「聞く・見ることの大切さ」「気持ちのコントロール」「苦手なことも最後まで取り組む」などをテーマとして、このプログラムのためだけに作成したYMCAオリジナルワークシートを使用して学びました。
例えば聞くことであれば、その大切さをワークシートで確認し、次に上手にその姿勢をとることができているか、iPadで撮影して客観的に確かめます。そして聞くことを意識したゲームを通じて、上手にできるかを体験します。
このトランプはそれぞれのマークに参加した子どもたちの似顔絵が描かれており、指導者の裵(ぺ)が作成した世界にひとつだけのトランプです。このトランプを使って1日目は3ヒントクイズをしました。「男の子で…」「黒色で…」と最後まで指示を聞かないとわからないゲームです。
聞くだけでなく、勝ち負けも出てくるため、色々な苦手さを体験しながら練習していきます。
2日目はババ抜きを通じて気持ちの調整の練習をしました。
ババ抜きは本当に奥が深いゲームです。トランプの持ち方は人に見られないようにする他者視点も育みます。そしてババを引いても感情を表情に出さずに平静を装う演技力、さらに運もあります。ババを引きたくない気持ちから離脱者が出ることもありましたが、すべては学びの貴重な体験です。
【昼食】
昼食はお弁当を持って、近くの公園で食べました。 お弁当は前日の夕方に毎回、3つのメニューの中から食べてみたいお弁当を注文します。「選ぶ」「自己決定」などをねらいとしています。このプログラムはすべてが将来の自立につながるように構成されています。
子どもたちはシートを張ることも率先して行っていました。食事後の一番の楽しみは鬼ごっこです。2時間、部屋で学んでいたので、動きたくてうずうず。指導者と一緒にたくさん走り回りました。みんなとてもよい笑顔でした。
【ヨガ】
午後からはボディイメージや模倣、体の柔軟性やバランスなどをねらいとして最初にヨガを行ないました。
最初は室内でストレッチやペアワークです。
二人で協力して息を合わせてポーズをとることにもチャレンジしました。
時々、座り方遊びで正座やあぐら、このようなお姉さん座りなどで楽しく体を動かしたり…
座ったまま、体を左右にゆさぶって前に進むお尻つけ競争で楽しむことも。
最後は一定の時間、意識して「体を止める」練習も。子どもたちにとって力まず自然な力で体を止めることは結構難しかったですね。
室内で行ったヨガの内容は外でも乗馬を待っている間に練習します。
ヨガの達成シートをもらい、早速外でも練習開始です。すべて達成できるとどうなるだろう…。楽しみながら頑張りましょう!
ヨガがワンポーズできるたびに「遊び時間」を獲得できるルールです。遊びは「手押し相撲」「○×ゲーム」など、学校で友だちと楽しく遊べる内容になっています。ここではすべてがソーシャルスキルにつながるようにプログラムが構成されています。
時々するかくれんぼでこんな光景も…。かわいらしいです。
みんな3日間頑張てすべてのポーズをクリアできました!
達成したご褒美として、すべてのカードに自分の似顔絵が描かれたオリジナルトランプを獲得できました。 おめでとう! 家族や友だちと楽しんでください。
【乗馬】
子どもたちが一番わくわくして、そして学んだSSTをたくさん実践できたのがこの乗馬です。
最初に馬を使っての準備体操です。調馬索(ちょうばさく)に沿ってみんなが一直線に並んで歩いたり、走ったりしました。これも人や馬に合わせる練習です。
乗馬プログラムでは、馬に乗ること以上に難しいのがこの引き馬です。馬のペースに合わせること、そして真っ直ぐに歩いて馬が歩く道に入らないこと(馬に自分の足を踏まれてしまうため)など、かなり馬を意識して歩く必要があります。さらに乗っている人に、そして指導者の声かけにも意識を向けるため、注意の分配に大忙しです。
最初は常歩(なみあし)でゆっくり歩くな中で馬上体操を行ない、バランスをとる練習をしていきます。歩く速さに合わせて姿勢を維持していきます。
慣れてきたら速歩(はやあし)でも練習していきます。指導者の話を聞くこと、そして見本を見ることの大切さを意識して取り組みました。引き馬も速歩になってくるとより難しくなります。指導者も細心の注意を払って補助します。
乗り終えた後は感謝の気持ちを込めてにんじんをあげ、指導者の指示を聞きながら馬装解除をしていきます。
3日目になると馬のサイズが変わります。
その大きさに圧倒されて、怖さを感じる子どももいました。馬をじっと見ながら、何を思っているでしょう…。
SSTで最後まであきらめないことも学びましたでの、さあ、どう克服するでしょう?
ヨガの時間ですが、みんながしている姿をじっと見ています。それだけ真剣な証拠。見ることの大切さがわかってきましたね。
みんながしているところをしっかり観察していたからこそ、手を離して乗ることもできました。顔がとても真剣です。上手に乗れて自信にもつながっていました。
また乗馬の順番や引き馬の綱をだれが持つか、上手にできた・できないことでくじける場合もあります。気持ちの調整も絶えず入ってきます。
順番争いは絶えませんでしたね。でもすべては練習です。時間をかけて話し合い、気持ちを消化させていきました。
乗り終えた後は同じようににんじんをあげ、馬装解除をしました。3日目になるとやり方を覚えている子もいて頼もしい限りです。
こうしてたくさんのことを学び、たくさんのことを体験した3日間があっという間に過ぎていきました。
ソーシャルスキル・ヨガ・乗馬という非日常の体験をの中で出会った人からの学び、そして体験したことの影響は大きく、それは永遠に心に強く刻み込まれます。この3日間の経験が学校や家での生活に活用されることを願っています。
この3日間、プログラムの趣旨にご理解下さり、毎日、子どもたちの参加を支えて下さった保護者の皆さま、ありがとうございます。
またプログラム開催にあたり、全面的に協力いただきましたさんりんしゃの他の関係部署のスタッフの皆さま、そして子どもたちの安全をなによりも考え馬の対応をしてくださった松尾さんに心から感謝申し上げます。
次は2018年12月末に小学校5~6年生、そして中学生を対象に開催予定です。