イベント
てくてく中高生クラス ワークキャンプ
てくてく中高生クラスでは就労に向けて意識を高めることや社会に出てから必要なコミュニケーション力や問題解決力を育む取り組みを月に1回、大阪YMCAで行っています。しかし、教室での学びや体験できることには限界があるため、1年の最後に学んだことを実際の場で行ってみるワーク(就労体験)キャンプを、高校生を対象に今年度から紀泉わいわい村との合同企画で実施しました。
今年度のワークキャンプは3月25日(水)~27日(金)まで、紀泉わいわい村で行いました。このキャンプはアルバイトや就職活動を意識しているため、働きによって時給が支払われます。また集合や解散の保護者の送迎や報告などは原則なく、現地近くの駅に自分でルートを調べて集合します。
紀泉わいわい村の最寄駅はJR阪和線の和泉砂川駅。大阪からは1時間ちょっとかかります。10時50分の集合に電車の遅延なども考えて30分前から集合しているメンバーもいました。目的の駅まで無事にたどり着けるか不安だったメンバーもいましたが、全員が集合時間までに集まることができ、紀泉わいわい村まで移動しました。
ここが紀泉わいわい村です。昔ながらの古民家が立ち並ぶのどかな村です。ここで2泊3日の就労体験と自炊生活が始まります。
まずは紀泉のスタッフからこのキャンプの趣旨が説明されます。
一見、話を聞いているように見えますが、よそ見をしたり、手足を動かしていたり、気をつけの姿勢が歪んでいたりしています。
しかし、3日目の解散時には…
このような姿になりました。この部分だけ先に3日目をお見せしていますが、これくらいキャンプの間に姿勢が変わりました。意識は姿勢にあらわれます。就労は「他者評価」の世界です。よい印象を持ってもらうために自分ができることは確実に実行してことが求められます。
先ほどの姿はこの話の後にすぐフィードバックをしました。このように単に労働するだけでなく、就労できる(選ばれる)ためにはどのようなことに気をつけなければいけないのか、3日間かけて何度も伝えていきます。
さて、どんな3日間だったか、たどっていきましょう。
まずは持参した昼食を食べて、そこから実際の作業のオリエンテーションです。
何も言わなくても荷物はきれいに整理整頓されています。これは1年間のクラスでの意識のあらわれですね。
先ほどの「聞く姿勢」についてタブレットの画像で振り返ります。聞いているうちに徐々に姿勢がよくなっていきます。
これはワーク時のチェックリストになります。どのような点を意識しなければいけないかを事前に確認しておきます。
ワークに移る前に自炊に必要な枝や薪を全員で拾いに行きます。
今回の就労体験は3日間かけて2時間のワークを4回行います。それとは別に夜はSST(ソーシャルスキルトレーニング)があります。そのほか、食事は基本自炊です。とても濃い3日間を協力しながら過ごしていきます。
ワークの時間まで夜の自炊の役割を話し合って決めています。①ご飯を炊く、②お風呂を沸かす、③お鍋を作る すべて火をたいて行います。高校生ともなれば、話し合いで譲り合って決めることができます。
ワーク① ジャガイモ畑作業
農作業を教えて下さるスタッフからジャガイモができるまでを教えてもらい、実際に植えつけをしていきます。リュックを背負ったまま聞いている人とさっと近くに置きに行ってから聞く人、気づきは様々でした。
耕うん機も操作の仕方を教わって、順番に土を耕していきます。普段使っていない筋肉を使う作業が続くため、動きのぎこちなさが目立ちましたが、操縦に一生懸命でした。
耕した土はクワで畝(うね)を作っていきます。この力加減が難しかったです。
手が空いているときはどんどん次の作業を聞きにいかなければならないのですが、名前を呼ばれないと立ち尽くしてしまうメンバーも多かったです。率先して作業を聞いていくメンバーの行動にはスタッフのチェックの目が光ります。
植えるためのジャガイモは半分に切って、灰をつけて植えていきます。等間隔になるように意識しましょう。
最後は土を丁寧にかぶせて、畝(うね)をきれいにします。
最初は興味津々だったメンバーも労働が長くなるにつれ、足が重たくなってきます。しかし、まだまだ作業は続きます。
この後、後片付けや田畑の整備をしてようやく2時間のワークが終了です。
みんながしてくれた畑は7月に収穫予定です。
このように印をつけておきました。
さあ、次はワークではないですが、力の源、夕食作りです。
昔ながらのへっついを使ってご飯やお鍋を炊いていきます。
お風呂は五右衛門風呂になりますので、外で火をたきます。
畑で栽培しているブロッコリーをおすそ分けしてもらい、お鍋の具材は下準備をしていきます。
お鍋もご飯もおいしくできあがりました。みんなが自分の役割を最後まで果たしてくれるため、短い時間で夕食も準備できました。
夜の講義では今日のワークでの行動を写真で振り返り、今回のキャンプ参加に際して提出してもらっていた履歴書のチェックをしていきました。
履歴書では志望動機や自己アピールなどの表現の仕方など、どう書いていけばよいか重点的に行いました。
こうして1日目が終了しました。
2日目
早朝、今日の流れ、掃除、朝食の役割分担のMTGをしてから活動開始です。
お風呂はこんな形です。シャワーがないので、火で焚きながらどんどん水を足していっていました。
昨日の夕食で使い勝手もよくわかってきたので、素早く動くことができていました。
ワーク② キャンプ場の整備
集合場所に行ってみると、たくさんの道具が準備されていました。作業の多さを物語っています。
今回は宿で使用した炭や灰の処理、そして落ち葉や枯れ枝で埋め尽くされた側溝の清掃です。
この穴は炭や灰をためておくものです。だんだんと埋まってきたので、たまった炭や灰を掘り起こして畑に移動して肥料として活用します。
燃えずに残った木などは再度燃やすため、ショベルで掘りながら分別していきます。
リヤカーの操作も力仕事です。どう近づけたら掘り起こした炭や灰を載せやすいかを考えて移動させます。
側溝の清掃も力仕事が続きます。昨日の畑仕事とは違って、今日はずっと力仕事です。張り切りすぎて猛ダッシュするメンバーがいるため、最後まで続けられるようなペース配分で作業をするように伝えています。
これは何の話をしているのかと言えば…
側溝を掃除していると砂ぼこりが舞います。目の前の宿舎の窓があいていたため、村長から「窓があいているけれど、この窓をどう工夫したら清掃担当の人の仕事量を減らすことができるだろうか?」と問われました。考えた末に「網戸を閉める…」
村長が清掃の間だけ窓を閉めておけばほこりが宿舎の中に入らずに、清掃の人も助かることを伝えました。仕事とは自分だけのことを考えてするのではなく、広い視野で考えることの大切さを感じていました。
みんなが頑張ってくれたので、側溝はとてもきれいになりました。これで大雨が降っても雨水が路地まで流れ込むことはなくなるでしょう。これで午前中のワークが終了です。
昼食は時間の関係で自炊ではなく、食堂を利用しました。自分で作らなくても食事が用意されている環境にとても感謝していたメンバーです。この感謝、家に帰っても忘れずにいてほしいものです。
ワーク③駐車場の整備
午後からは駐車場の整備です。
駐車場までの移動、心なしかメンバーの背中に疲れが…。でもこれが「働く」ということです。1日8時間×5日間×4週=1か月のお給料がもらえる社会です。肉体的な体力だけでなく、気持ちの体力も必要になります。メンバーの背中を見ながら、学生から急に社会人になるのではなく、適度に社会体験を積むことで「働く」という感覚に慣れていくことの大切さを感じました。
駐車場では木が成長しているため、駐車している車に接触する可能性がある木は高枝のこぎりで伐採していきます。
なかなかの重量のあるのこぎりなので、しっかり持たないと体が揺れてうまく切れません。また切る角度によってどこに枝が落ちてくるかを考えなければいけません。ただ切るだけの作業ではない学びの多い作業です。
切った木はリヤカー組が運んでいきます。
何度も何度も切っては運びの連続でした。終わってみれば…
たくさんの量の木を切り、そして運びました。
この他にも添え木で使っていた木を撤去し、後片付けもして午後のワークを終えました。
1日目以上に疲れはありますが、夕食作り開始です。
みんな疲れは一緒だという気持ちなため、離脱するメンバーはおらず、自分の役割を果たしていました。
ご飯炊きも手馴れてきました。釜で炊くご飯は本当においしかったです。
昨日はブロッコリー、今日はシイタケを畑でもらいました。自給自足のような生活ですね。
採れたてのシイタケは夜のバーベキューで炭火焼きをして食べました。とても新鮮でシイタケが嫌いなメンバーも食べるほどでした。
夜ごはんはバーベキューとご飯、トン汁です。食べ盛りの高校生なので、すべての食材がきれいになくなりました。至福のひと時でしたね。
夜は昨日同様に今日のワークを画像で振り返り、そのあとで「こんな時はどう行動する?」という問題解決ワークを実際にロールプレイで演じてもらいました。
「言われた仕事が期日内終わりそうもない。どう行動していくべきか」「仕事をお願いしたい同僚がイライラしている。どう声をかけていけばよいか」など、社会人を想定した内容で解決策を考え、演じてもらい、講師からフィードバックしました。
ワークキャンプでは1日の最後に業務日誌を書きます。
最後の力を振り絞って書いていました。こうして2日目は終了しました。
3日目
昨日同様に早朝のミーティングをすませて、作業に入りjます。今日はチェックアウトなので、昨日以上にきれいにします。
学校では役割を言われると「なんでぼくだけ?」と損な気持ちになることもあると思います。しかし、社会では任命されることはその人を信頼しているという証であり、名誉なことだと伝えるとスタッフから任命された役割を張り切ってこなしていました。
朝食はカートンドッグ作りです。ソーセージをはさんだロールパンをアルミホイルで包み、牛乳パックの中に入れたら火をつけて燃やします。燃え終わると食べごろです。
灯篭の火のように燃える牛乳パックに暖かさをもらい、野外での朝食を終えると最後のワークです。
ワーク④ 即席のかまどで牛すき焼き丼作り
2日間、色々なワークをしてきましたが、最後は創意工夫が求められるワークをします。何もない野原で石を組み合わせてかまどを作り、落ちている木や枝を使って火を焚き、牛すき焼きを作ります。これはチームで動きます。自分はどんな役割を果たせばよいか、自分の力と相談しながらすすめていきます。
サポートクラスでは初めて行うワークです。作業工程や調理手順はもちろん口頭説明のみ。
みんな、メモするのに必死です。このメモ、スタッフは「メモするように」とは言っていません。メモする道具はキャンプ中、自分で絶えず持参しています。だから自然とメモできていました。この意識も1年間の成果ですね。
さあ、作業開始です。
調理の燃料となる木は与えられたノコギリで調達しています。火つけには朝に使った牛乳パックの残りを活用します。
石や岩を運んできてかまどの形にしていきます。薪を組むには浅いため、ショベルで穴を掘ります。このかまどの向きも風などを考える必要があります。
色々な形を試行錯誤しながら試していきます。ここで野外の知識を周りの人に聞ける力のあるグループは成功率も高くなります。社会性のスキルの中で「人に聞ける」力はとても有効なスキルです。わからないまま突き進んでも時間だけが過ぎていき、失敗する可能性もあります。
このグループは上手な形に作れました。ここでスタッフに確認しにいくと、
スタッフ:「鍋が実際の重たさになっても、このかまどは大丈夫なの?」
メンバー:「まだ作ってないから(試すのは)無理!」
スタッフ:「じゃあ、どうしたらいい?」
メンバー:「・・・」
考える力や耐える習慣があまりないと「やったことないし!」「知らない!」「もうやらない!」などの行動になりがちですが、さすが1年かけてトレーニングしていることはあります。考えた末、実際の重たさに近いくらいの水を入れて置いてみることに。
載せてみると予想以上に網のへこみが…。さあ、どうする?
考えた末、網を二重にして補強していました。人に聞く力は大切ですね。
かまどの見通しがつけば同時進行で調理開始です。限られた時間の中で完成させることも「作業の質」の評価になっています。
味付けをして煮込んでいけば、完成が近づいてきます。味付けは何度も味見をするなど、苦戦していました。
なかなかいい具合にでき上がりました。予定時間を少し超えてしまったグループもありましたが、ケガもなく安全に作業を遂行できていました。それではいただきましょう。
なかなかおいしい牛すき焼き丼が完成しました。
作業して空腹の食べ盛りの高校生、あっという間になくなっていきました。
後片付けが終われば、今回のキャンプの評価とお給料の授与です。自己評価では「ほとんどないのでは・・・」と思うメンバーも入れば「満額支給だ!」と自信満々のメンバーも。
実際にもらいながら評価を受けてそれぞれが納得していました。頑張りに対して得られた対価は大きいですね。
スタッフからは「初めてもらったお給料は全部自分で使うのではなく、今まで育ててくれた両親に感謝の気持ちを込めて、もらった一部を使って何かプレゼントを買うものです」と伝えました。
最後は終了式です。最初にも出しているこの写真が3日目の成長した姿です。
仕事は内容によって作業が異なりますが、意識や考え方は共通していることが多いです。学校は授業料を払って通うところですが、就労はお給料をもらうため、継続して働かせてもらうためにどれだけ高いスキルを発揮できるかが勝負になります。その意識や考えはすぐに身につくものではありません。このキャンプがアルバイトと違うのはジョブコーチのような存在がいて、常に自分の行動についてフィードバックしてもらえることです。注意を受けてイライラしたり、理不尽さを感じても、理由を噛み砕いて説明してくれる人がいることはとても大きいです。
参加メンバーのみなさん、2泊3日お疲れ様でした。そしてこのキャンプの趣旨をご理解くださり、送り出してくれた保護者の皆様、ありがとうございました。
最後に、このキャンプの開催にあたり、全面的にサポートしていただきました紀泉わいわい村のスタッフの皆様に感謝申し上げます。