コロナ禍でお子様を支えておられる保護者のみなさまへ(表コミ通信11月号巻頭文)

 下の娘は10月で3歳になりました。伝えたいことも、自分でやりたいこともたくさんありますが、できないことも多く、イライラすると「ギャーーー!!」と顔を真っ赤にして怒ります。悔しさを特大のエネルギーにして、全力でぶつけて来るのです。怖い夢をみて泣いて起きた娘を抱いて、眠りに落ちるのを待つ朝方。16Kgと11Kgの、ぐずった2人を両腕に抱えてこども園の階段を駆け上がる朝。咳き込んで戻したものを両手で受け止めてもそれだけでは間に合わず、汚れた布団を前に途方に暮れる夜。親って、なんてすごい仕事なんだと日々感じずにはいられません。そんな日々を、保護者のみなさまもきっと過ごしてこられたのではないでしょうか。

 私にはまだ、この子たちが私の手を離れて、1人で家の外に出ていき、自らの足でただいまと帰って来る姿が想像できません。その果てしない未来を思うと、今目の前にいる表コミ生1人ひとりの存在の尊さに胸をうたれます。1人ひとりの生徒が表コミに来るまでに、保護者のみなさまがどれほどの時間と愛情をかけ、どれほどの葛藤を抱えてこられたのでしょうか。ご家族の皆さまのこれまでのお子さまとの時間やお子さまへの思いに、思いを馳せると、深い尊敬の念でいっぱいになります。

 先日、娘の園の保育士の方に「お母さん、頑張らなくていい。こどもを育てるって、本当にすごい仕事だから。十分すごいんです。」と声をかけられ、思わず涙が溢れました。保育士さんの娘たちへの愛情だけでなく私にも向けられた愛情に救われたのです。私たち表コミも、毎日職員室の中では生徒の話題で持ちきりです。この子が今どういう状態かの情報共有や今後の支援の方向性を考えるだけでなく、伝えずにはいられない生徒の面白エピソードや感動エピソードで溢れています。生徒を愛する気持ちは、どの学校にも負けません。また同時に、保護者の方が辛い思いをしていないだろうか、困っておられないだろうかと、生徒のすぐ側にいらっしゃる保護者の皆さまに、今私たちができることは何かも思案し合っています。私たちは、保護者のみなさまにとって、お子様の大事な「今この時」を共に支える戦友でありたいと願っています。

 保護者のみなさまは、今どのような日々を過ごしておられるのでしょうか。お子さまの登校に一喜一憂されている方も、毎日登校できるようになったからこその人間関係の葛藤を見てもどかしく思われている方も、思春期だからこその家庭での関わり方に葛藤を抱えておられる方も、もしかしたらコロナの影響で心身ともに疲弊しておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、このコロナ禍で、仕事と家庭の両立に悩んでいた時期がありました。自分の価値が見つけられず、苦しく、辛い時間でした。そんな日々に、灯りをともしてくれたのは、他ならぬ表コミ生でした。表コミを選んできてくれた生徒たちの、直向きな姿、奥にある優しさ、純粋さ、強さ、繊細な心の機敏と、豊かな感受性。得意なことも、苦手なことも全部含めて、それぞれの命や個性の多様性に触れることで、私自身が1人の人として、とても救われました。今、生きて、私たちと出会ってくれた生徒自身への感謝と、これまでずっとお子さまを、側で支えて来られた保護者の皆さまに、この場を借りて感謝をお伝えいたします。今の私にとって、みなさまお1人おひとりが、ヒーローです。

 最後に、ニューヨークのリハビリテーション研究所の壁にかかれた、ある患者の詩を紹介します。大きな時代の変革期の中で、思春期のお子さまを育てるという偉業を成し遂げておられる保護者のみなさまに敬意を表して。少しでも、みなさまの心の支えになれれば幸いです。

大事をなそうとして

力を与えてほしいと神に求めたのに

慎み深く従順であるようにと

弱さを授かった

より偉大なことができるように

健康を求めたのに

よりよきことができるように

病弱を与えられた

幸せになろうとして

富を求めたのに

賢明であるようにと

貧困を授かった

人生を享楽しようと

あらゆるものを求めたのに

あらゆることを喜べるようにと

生命を授かった

求めたものは一つとして与えられなかったが

願いはすでに聞きとどけられた

神の意にそわぬ者であるにもかかわらず

心の中の言い表せない祈りはすべてかなえられた

私はあらゆる人の中でもっとも豊かに祝福されたのだ

主任 西村麻衣