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必要なことを仕事にする

 今回のゲストティーチャーは、介護事業「OUR HOUSE」を起業された“前田 一成さん”にお越しいただきました。毎年、表コミ生の中には、介護の仕事に興味を持つ生徒がおり、実際のお仕事の内容などを話していただきました。

 

「私が大切にしていることは、介護する相手がお客様だという意識を忘れないことです。私達の仕事はサービス業なので、何かをさせていただくという認識を持つことが大切です。○○してやるという気持ちで関わられると、人はやはり嬉しくないものです。介護と聞くと、高齢者のイメージがあるかもしれませんが、私の事業所は障がい者のお客様が多くいます。障がいを持った方の介護をするための事業として、介護事業部、マッサージ事業部、研修事業部(教育やヘルパー2級の講座を開いたりする)、機能訓練事業部などがあります。

 

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私は1992年にこの事業所を起業しました。まだその頃はヘルパーの仕事は公共の仕事のイメージがあり、民間でヘルパーをやることは受け入れられていない頃で、会社を作ってからマズイと思いました。起業をすることを決めたきっかけは、大学時代にしていたボランティアです。私はボランティアで、ある障がい者の家に手伝いをしに行っていました。しかし、正月やお盆は自分の都合で休み、テスト前は試験が大切と休みました。ところが、相手は24時間生活しています。もちろん正月もお盆も関係なく求めています。このボランティアのいい加減さが自分自身にひっかかりました。では、どうしたら、何より介護を優先していけるのかと考えた時、“仕事になればできるのではないか?一番大切にできるのではないか”という考えに行き着きました。しかし、いざ起業をするとなり、会社を辞めたときには、お金はない。そこで、朝5時に起きて運送屋のバイトをしてから事業所に行き、時には自ら介護者として仕事をすることもありました。とてもしんどく、もう一度やれと言われたらもう嫌だと思うほどです。この生活に転機が訪れたのは、ある食事会の席で大阪市社会協議会の人と出会った時です。自分の仕事の話をしてみると、それならと仕事を貰えるようになりました。“いろんな人に出会うことが自分の人生を変える”と体感したできごとでした。

 

みなさんに、お金を儲ける方法を教えてあげましょう。それは、自分の人生を成り立たせているものをよく知ることです。お金もそうですが、感情や知識、人間関係などたくさんありますね。その中のお金だけを増やそうと思ってもそれは無理です。それより、他の部分を育て大きくすることで、報酬つまりお金も自然に増えるのです。それなのに、他を育てる努力をしないで報酬だけ増やそうとするので無理がくるのです。世の中はすべてにおいてバランスがあり、バランスにより成り立っているのです。

 

私は、お客様に楽しみを与えられる介護をしたいと思っています。生きていても楽しみがないというお客様に対し、介護者そのものがその人の楽しみになりなさいとスタッフには言っています。ヘルパーに会えることを楽しみにしてくれたり、一緒に外出することを楽しみにしてもらうことは、びっくりするぐらいの喜びがあります。逆に一番辛いことは、お客さんが亡くなった時です。お葬式ではいつも涙が止まりません。それは、後悔の涙です。もっとあれができたのに、もっとこんなことをしておけばよかった、という申し訳ない気持ちが次々湧いてきます。その後悔を活かしてさらによい介護を志しています。

 

介護の仕事は、報酬が安いという現実があります。しかし、お先真っ暗ではなく、今の日本で数少ない成長分野です。介護の技術は3年間実務を積めば習得できます。大切なことは“感じる力”です。お客様がどうして欲しいと思っているのか、どう感じているのかを感じる力です。

 

苦労していることは何かという質問を受けましたが、やりたいことがあり、それに向かって進んでいる時、それを苦労とは思いません。世の中に失敗なんてないのです。例えば右に行く。右の道は行き止まりだった。それは、失敗ではなく、成功です。右は違うということに気付けたからです。人は目標がなくなった時に失敗となってしまうのです。だから、みなさんも失敗を恐れず、いろんなことにチャレンジして欲しいです。」

 

生徒たちは大変真剣に耳を傾けていました。心に響くお話をしてくださった前田さん、本当にありがとうございました。

 

<生徒の感想より抜粋>

     「世の中に失敗は存在しない」という言葉が僕はとても心にグッときました。勇気があふれてきました。

     印象にのこったお話は介護はお客様に楽しみを与えるものだというお話です。中には何の楽しみもなく寝たきりのままの人もいるということを聞き、そういう方たちのために、楽しいという気持ちを与えられる介護という仕事はやりがいがあるなと思いました。

     今、新聞などで時々介護ロボットの開発のニュースを見ますが、前田さんのお話を聞いていて、介護に必要なのは技術だけでなく、介護を受ける人の気持ちを感じとる力でそれは人間だからこそできることなのだと思いました。